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Report File:2013.03

05|11月24日(日)文部科学省グローバル人材育成推進事業採択校(東日本第2ブロック)イベント 会場:お茶の水女子大学「グローバル人材育成フォーラム」

 武蔵野美術大学では、本学の卒業生の創作支援として、「パリ賞」と呼ばれるヨーロッパ留学の機会を設けています。2名の受賞者は1年間、用意されたパリのアトリエで活動に励みます。今回は、2012年から留学し、現在もパリでの生活を送る三澤直也さんにお話を聞きました。

Profile

三澤 直也 みさわ・なおや

2007年造形学部工芸工業デザイン学科インテリアデザインコースを卒業。2008年から2012年までインテリアデザイン研究室で助手を務め、2012年9月よりパリの「Cite Internationale des Arts」に滞在している。

ものづくりを続ける上での
アイデンティティを確立したい

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Q パリ賞に応募しようと思った動機について、具体的にお聞かせください。また、パリ賞の応募対象は卒業後2年~8年以内ですが、現在のタイミングを選んだのはなぜですか。

三澤 パリに限らず、異国の文化に触れ、デザイン活動を行う上での、自らの経験値を上げたいという思いが先行してありました。そんな中でパリ賞の存在を知り、応募を決めました。審査に臨むにあたり、フランスの芸術文化の歴史を調査するうち、強く惹かれ、何が何でもこのチャンスを掴みたいと、決意を新たにしました。
在学中、助手着任中はシンプルなモダンデザインを追い求め、日本のわびさびに象徴されるような「素」の美学に傾倒していました。しかし、フランスの芸術文化は装飾の美学です。この相反する美学の間に、自分がものづくりを続ける上でのアイデンティティを確立したいと考えたのが、大きな動機です。

Q 現在はどういった生活を送り、どのように制作活動に取り組んでいるのでしょうか。

三澤 私の活動の重点は、アールヌーヴォーからモダニズム、コンテンポラリーに至るまでの、フランス延いてはヨーロッパの、造形・生活文化の調査研究と、その成果を反映させたデザインプロトタイプの制作をバランス良く行う事です。 来仏から最初の三ヶ月は、様式家具とアールヌーヴォーについて研究活動を行いました。パリに限らずエミール・ガレ等が活動したナンシーでも研究調査を行いました。
同時に先端技術を利用した照明のデザインコンペティションにも参加しました。日本とは異なる、ヨーロッパのあかり文化から得たインスピレーションを、反映できた事をうれしく思っています。
その後は、20世紀の進化とともに建築、デザインの分野で活躍したジャン・プルーヴェの活動を追います。

《注》
アールヌーヴォー:フランス語で「新しい芸術」を意味する芸術運動。花や植物などの有機的なモチーフを使い、装飾性に富むデザインが特徴。
エミール・ガレ:アール・ヌーヴォーを代表するフランス人の工芸作家でありデザイナー。
ジャン・プルーヴェ:20世紀を代表するフランス人デザイナー、建築家。

Q 同じアトリエに入居している方々や、周囲の方々との交流の様子についてお聞かせください。

三澤 Cite Internationale des Artsには画家、写真家、音楽家など様々な分野で活躍する、世界中のアーティストが滞在しています。毎週のようにオープンスタジオというアトリエを解放しての個展や、施設内ホールでコンサートが開催されています。そういった場所で、言葉も分野も異なる人々と触れ合う機会に恵まれています。今まで縁遠く感じていた領域で活動する人々との交流は、常に刺激的で、この施設ならではの経験と感じています。

異なる言語の習得は、
その活動範囲を自ずと広げる

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Q 留学生活を充実させるために、自分なりに心がけていることについてお聞かせください。

三澤 フランスの人々の多くと同じように、衣食住、生活の全てに感心を持ち、日々の一瞬一瞬を豊かに過ごす気持ちを持つ事です。

Q 事前にフランス語は習得されていたのでしょうか? 言語・コミュニケーション面で苦労したことについてお聞かせください。他の言語を使う場面もありますか。

三澤 日本でも語学学校に通いましたが、やはり十分とはいかず、語学の部分で不安を持ったままの渡仏となってしまいました。そのため、語学の壁は常についてまわりますが、その分、簡単な会話でもコミュニケーションが取れた時の喜びが大きくあります。またCite Internationale des Arts内は外国人が多く、滞在者同士の会話には英語を用いる事が多くあります。引き続き、仏語と英語の勉強も、調査制作活動と併せて意欲的に行うつもりです。

Q また、制作活動に取り組む上で、語学力はどのように関わってくると思われますか?

三澤 デザイナーにとって、その作品自体が共通言語になる可能性はもちろんありますが、言葉を用いて説明するという事も、必要不可欠の要素であると思います。それは世界中のどこにいても同じ事で、異なる言語の習得は、その活動範囲を自ずと広げるものと痛感しています。自分のつたない語学力を恥ずかしく思いながらも、新たなステージに向けて語学習得に意欲を燃やしています。

Q 渡仏してから、制作への姿勢や価値観の変化、語学力の向上など、ご自身で実感している変化についてお聞かせください。

三澤 こちらでは時間がゆっくり過ぎているせいか、木の枝振り、鳥の動き、空の移り変わりなど、身のまわりの自然に、今まで以上に目が行くようになりました。自然をモチーフにした「装飾」に対する理解も深まり、今までは不要とすら感じていたものが、人の生活を豊かにする力を備えたものである事に気付き、得した気分でいます。

Q 残りの留学生活への抱負をお聞かせください。また、留学の経験を活かして今後どのように制作活動に取り組んでいきたいと思われますか。

三澤 志を高く持ち、フットワーク軽く、失敗を恐れずに邁進したいと思います。この1年間で得る経験をもとに、文化の壁を超え、オリジナルなバランスを持ったデザイナーとして、生活に根差した活動を目指したいと思っています。

Q アーティストを志す人にとって、留学の経験はどのような意義があると思われますか。

三澤 ものづくりをする人間にとって、インプットの量は、その表現や活動の幅を広げる役割を持つと思います。よって、意識的な視点を忘れなければ、異国での経験の全てが、自らの蓄えになると信じています。

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