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Report File:2016.10

05|11月24日(日)文部科学省グローバル人材育成推進事業採択校(東日本第2ブロック)イベント 会場:お茶の水女子大学「グローバル人材育成フォーラム」

今年の7月から8月にかけて、フィリピンで実施された国際交流プロジェクト「Craft Design development at Sorsogon, Philippines」。このプロジェクトの代表を務めた、基礎デザイン学科の板東孝明教授と工芸工業デザイン学科インテリアデザインコースの伊藤真一教授にお話を伺いました。

ムサビの国際交流プロジェクトについて

2006年度に発足した「国際交流プロジェクト」は、国際交流を大学としてサポートし、個人や学科の経験を大学全体の資産として共有することを目指す制度です。海外の教育機関との共同プロジェクトを通して、新たな美術・デザイン教育の方法論を模索するとともに、本学の教育の在り方を世界に発信します。海外を訪れて現地の学生とともに制作する。そこには、国籍や専攻を越えて語り合う機会が広がっています。また、訪問教授制度や産官学共同プロジェクトなどとの、有機的な連携や相乗効果も期待されています。

武蔵野美術大学 国際交流プロジェクト
http://www.musabi.ac.jp/international/exchange/project/

今回のフィリピンにおけるプロジェクト実施のきっかけ

伊藤教授 独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)では2015年からフィリピンの貿易産業省(DTI)の現地事務所に青年海外協力隊員を派遣しています。その事務所に派遣されている出口さんが本学の現代GP*で行った「EDSバンブープロジェクト」のウェブサイト(http://www.musabi.ac.jp/bambooproject/)をご覧になり、地域デザイン創出、特にナチュラルプロダクト(自然素材を基にした製品)のデザインに関する相談を受けたことがきっかけでした。また、私も20代後半に青年海外協力隊員としてガーナに派遣されていたこともあり、そこで得た経験を少しでも学生に伝えることができるのではと考え今回のプロジェクト実施に繋がりました。

※現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)
文部科学省が、社会的要請の強い政策課題に対応したテーマ設定を行い、各大学等から申請された取組を広く社会に情報提供することや財政支援を行うことにより、これからの時代を担う優れた人材の養成を推進するプログラムです。

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貿易産業省ソルソゴン州事務所にて 中央が事務所長のLEAH A. PAGAO氏、左端が出口真紀子青年海外協力隊員、右端が上級職員のMaloudes D. Pancho氏

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合同ワークショップを行ったフィリピン・ビコール大学にて。後列右から5人目がビコール大学アーヌルフォ・マスカリナス学長。続いて基礎デザイン学科板東孝明教授、工芸工業デザイン学科伊藤真一教授、同鈴木純子准教授

プロジェクトの概要について

板東教授 今回プロジェクトを行った場所、フィリピン共和国ソルソゴン州はルソン島の首都マニラから車で9時間、飛行機で1時間の距離に位置する人口15万人の町です。そのエリアのハンディクラフト製品や食品の製品価値向上のために2015年4月よりJICA青年海外協力隊員が貿易産業省の現地事務所へデザインの職種で派遣されています。
今回のプロジェクトは、その隊員と現地事務所との連携によって本学の学生が現地の生産者と直接やり取りを行いながら製品のデザイン及びプロモーションデザインを行うものです。具体的には、生産者からのヒヤリングを8月に行い、後期の課外授業としてその製品、プロモーションデザインを行いました。お互いにFacebookを利用するとともに、サンプルをやり取りすることでデザインを進めていきます。今回の渡航では生産者の要望もあり、マンゴの葉を使用した草木染のワークショップを行いました。また、生産者及び将来のデザイナーになるビコール大学の学生とともに、デザインの力を認識する体験としてBamboo Dome建設のワークショップを実施しました。
生産者からのヒヤリングの過程では、フィリピンにおけるクラフトワークの実態調査として現地の7箇所の工房を訪問しました。例えば、「ニト」という強靭なツルからバスケットに加工する工房やフィリピン最大のヤシ科の植物であり、日本の竹素材のようにしなやかで丈夫な「カラゴモイ」という素材でバスケットなどの編み物を加工する工房を訪問しました。様々な素材に触れることでナチュラルプロダクトに関するブランディングについての問題点や改善点などを探ることができ、また公共交通機関を使っていくことが困難な村での生産者の生活を垣間見ることができ、学生にとって大変貴重な経験となりました。

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ニトを編んだ籠

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カラゴモイを編む

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鈴木純子准教授による、マンゴの葉を使った草木染ワークショップ

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イナ・エスペディトさんのフェアトレード工芸加工所にて

フィリピンにおける「デザイン」の位置づけはどのようなものですか

伊藤教授 フィリピンでは他の東南アジア諸国と比較すると伝統工芸品の種類は限られています。そのことが逆に製品へのデザインの必要性を高くしています。2000年代初頭に貿易産業省のセクターが牽引する形でMovement8というグループを形成し、海外に向けてフィリピンのデザインを打ち出すなど、さまざまな取り組みが行われています。また6月から8月にかけて国際交流基金の巡回展「現代日本のデザイン100選」がマニラのメトロポリタン美術館で開催されたように、日本のデザインに関するプレゼンスが徐々に高まっています。

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セブ島を拠点に活躍するデザイナー、ケネス・コブンプエ氏のギャラリーにて

現地での取り組みにおいて、学生の様子などはどうでしたか

伊藤教授 今回のプロジェクトを通じて、将来的にデザインを通じて国際協力をするような仕事、青年海外協力隊に行きたいと言っている学生もいます。今回は10日間の短い経験ですが、現地で生きる人々の目線に立って物事を考えるきっかけができたのではと思います。
ビコール大学でのグループセッションでは手工芸の生産者の方々を交えて、デザインの可能性についてディスカッションや最初のアイディア出しを行いました。ビコール大学の学生と本学の学生の間でデザインの進め方に大きな違いがありますが、調査能力が高い彼らと今後オンラインでやり取りをしながら製品化に向けてデザインを進めています。

板東教授 参加学生は、今回のプロジェクトを通じて支援プロジェクトの考え方やフェアトレードなどのリアリティを感じることができました。真剣に現地の素材に触れ、加工の様子を観察し、生産者に直接質疑することができました。この「リアリティ」は、当たり前ですが現地でないと経験できません。大変貴重な経験ですし、地産の素材から製品が立ち上がってくる様子に触れられたことは、デザインへの大きな刺激になったと言えます。今回の行程は、JICA及び貿易産業省、ビコール大学の全面的な協力なくしては実現しませんでした。フィリピンにおけるプロジェクトは今始まったばかりです。現地での経験を基に、学生達共々、新たなデザインを提案していかなければならないと感じています。

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本学学生とビコール大学のグループセッション

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ビコール大学主催の送別会の様子

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ライトアップされたBamboo Dome

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