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Report File:2013.08

05|11月24日(日)文部科学省グローバル人材育成推進事業採択校(東日本第2ブロック)イベント 会場:お茶の水女子大学「グローバル人材育成フォーラム」

 先にレポートしたハンガリーの写真家・美術史家、アンドレア・バトルフィさんと同じく3月にお越しいただいた、訪問教授のラマン・シュレンマーさんです。20世紀のモダンデザインに大きな影響を与えたドイツの芸術学校「バウハウス」。そこで教鞭をふるったのがラマンさんの祖父であるオスカー・シュレンマー(1888-1943)です。ラマンさんは、画家、彫刻家、舞台美術家としてバウハウスを代表するアーティストであった祖父の作品管理や研究を行ないながら、展覧会の企画なども行っています。今回は4日間のスケジュールで、アフリカの衣装やインドの映像作品を通じて世界各国の表現や、キュレーションに関する講義のほか、「オスカー・シュレンマーの作品と日本美術」をテーマに、日本での展覧会企画するというワークショップを学生と行いました。

Profile

ラマン・シュレンマー(ドイツ)

オスカー・シュレンマー・アーカイブ ディレクター。バウハウスで活躍した祖父である画家・彫刻家・舞台美術家のオスカー・シュレンマーの遺族コレクション・アーカイブを主催しながら、ヨーロッパ各地で数々のシュレンマー関係の展覧会、バレエ上演についての企画・監修を行う。

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日本の美術を再発見する

 ラマンさんとともにワークショップを行ったのは新見隆先生の芸術文化学科研究室です。2011年度にもラマンさんを迎えており、今回が2度目の訪問教授となりました。初日にはオスカーさんの代表作である『トリアディック・バレエ』を鑑賞。幾何学的な構成の舞台上を、カラフルで童話の登場人物のような衣装をまとったダンサーが、機械的に(時に音楽に合わせて)踊る、この独創的で実験的ともいえるバレエ作品から連想される日本の美術を学生たちは考えます。そして、2日目のこの日がその発表です。新見先生の授業は英語がベースで行われています。なので当然発表も英語。たどたどしくもありながら、自分の言葉を英語で伝えるコミュニケーション・スキルを身につける鍛錬の場となっているようでした。
 学生たちは3人ずつ6グループに分かれ、それぞれ図書館などで資料にあたり、『トリアディック・バレエ』に通じる日本美術を探し出しました。この日の発表で学生たちが取り上げたのは、ダンサーの衣装や造形、動きに着想を得て、着物やこけし、からくり人形、そして日本を代表する舞踏家・土方巽やファッションデザイナーのイッセイミヤケ、また、舞台に配された幾何学から江戸時代の画家・仙崖の作品や伝統的な文様である青海波など。学生独自の視点でオスカー・シュレンマーの作品を切り取り、日本美術を参照しました。ラマンさんは、学生たちに質問を投げかけ、彼らの思考を探りながら、つながりをひも解いて行きます。また、時に異なる視点を挿入することで学生たちに新たな気づきを与えました。

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 限られた時間の中で、バレエ作品に描かれたいくつものエレメントを各自が消化しながら、日本美術のアーカイブを探っていく。そこで彼らは自国の文化を再発見することになりました。ラマンさんは学生たちとのやりとりの中で、国際化する社会について、“グローバリズム”は均一化をイメージさせるから、それぞれが様々な背景を持った個性を尊重する“コスモポリタン”という言葉を使いたいと話されました。独自の風土や環境に育まれた日本の文化や美術、また同様に海外の文化も土地に根ざしたものといえるはずです。日本にいながら世界の情報にアクセスできる学生たちが見失いがちな価値観を、オスカー・シュレンマーの作品を介して気づかせてくれたのではないでしょうか。それは今後、美術や文化といったフィールドで活動して行く上で、作品の見方や考え方の大きな指針となるはずです。

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 それはやっぱり言語ですね。例えば、あなたが学芸員(キュレーター)として外国の美術館などと仕事をする際に、作品の借用など様々な重要なやり取りが発生する中で、互いに関係性を築く上でも必要なのはコミュニケーションです。外国の人と一緒に働く上では、コミュニケーションが取れることが最も大切です。日本の学生たちは自分自身を表現することが苦手ですね。大学の授業でも積極的に英語を話す機会を増やした方がよいと思いますし、学会などでプレスや聴衆を前に自由に話すことができるようになることが好ましいと思います。今回は春休み期間中ということで、とてもモチベーションの多い学生が多かったです。ただ短い滞在期間では打ち解けるまでに至らないこともあるので、長期間のプログラムなどもあるとよいと思います。

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■講座情報
講師:ラマン・シュレンマー
課外講座:2013年3月25日(月)15:00~16:30
ワークショップ:2013年3月26日(火)~29日(金)14:00~16:00
学外実習:2013年3月30日(土)メゾンエルメス/東京国立博物館「騨の円空―千光寺とその周辺の足跡」見学

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