Report File:2015.06
2015年度より1・2年生を対象に始まった授業「グローバルキャリアデザイン」。グローバルに活躍する人材を育成するためのプログラムとして、国際社会やグローバル経済といった世界の動向から、美術やデザインにおけるグローバルとはどのようなことか、様々な講師を迎え学んでいきます。5回目のこの日(5月15日)は、2007年に造形学部工芸工業デザイン学科インダストリアルデザインコースを卒業し、現在、アメリカ・ポートランドでナイキのスケートボード用シューズをデザインしている臼井大貴さんを講師に迎え、iRoomの機材を利用したオンラインでの授業となりました。臼井さんが海外で仕事をするにあたり、ご自身が経験してきたことや考えてきたことを学生の質問に答えながらお話しいただきました。
目標だったナイキへの就職
「インダストリアルデザインコースを選んだのは、スポーツシューズのデザイナーになりたかったから」と話す臼井さんは、大好きだったナイキでデザインをしたいと考えており、それを叶えるためにはどうしたらよいかを逆算し、同コースを選んだそうです。そして、2年次の途中で休学し、靴の専門学校にも通いました。1年後に復学すると、できたばかりのナイキの東京デザインスタジオのディレクターがムサビを訪れた際に話す機会があり、その後、出来たばかりのポートフォリオを持ってスタジオに。英語が話せず、ジェスチャー交じりで自分の作品を説明すると、デザイナーが作品を気に入ってくれ、インターンシップをすることになりました。それが3年次の夏、ちょうど就職活動を始めなければならない時期だったため、インターンを終えると、まわりには就職が決まった人もいて、内心では焦っていたそうですが、「変な自信があって、なんとかなるだろう」と課題に打ち込む日々。そして、卒業制作をナイキの人にも見てもらいたいと思い、案内を送ると、その直後に連絡が届き、「働いてみないか?」とナイキジャパンへの誘いを受けました。
語学の壁を越えて仕事をする
ナイキジャパンで働き始めると、本社のあるポートランドに行く機会も多くなります。ナイキで働くことを考えていた臼井さんは、学生時代から映画を見たり、ポッドキャストを聴いたり、自分なりに英語の勉強を積み重ねていました。それでも仕事に就いてからは「最初は英語が話せなくて悩んだ」そうです。しかし……
「ナイキではいろんな国の人が働いています。40%くらいの人が英語が第2言語。だけど英語が話せて、ランゲージバリアを越えて仕事をしている。英語が第2言語だからといって言い訳にはならない」
日本人だから英語が話せない、というのは通用しない。意識を変えることで働きながら英語を身に付けていきました。英語を話して仕事をするようになって8年が過ぎても、「完璧ではないし、まだまだ覚えることがある」そうです。そして、臼井さんが心がけていることは、「海外で働くという自分に酔わない。粛々と勉強」という姿勢です。
もうひとつ臼井さんが強調していたこと。それは「留学をしていなくても海外で働くことができる」ということ。「外国で働く人は、何かしらツテやバックアップのある人だけと思っていた」という臼井さんも、実際に海外での働く機会を得られ、海外にも住むことになりました。語学が堪能であることに越したことはないかもしれませんが、可能性はいろんな人に開かれているということを臼井さんは身を持って実現しています。
信じ続ける力をサポート
臼井さんは、学生の留学や海外での活動を手助けする〈アラムナイ・グローバル・サポーター〉でもあります。可能なサポートはポートフォリオ・レビュー。そこには臼井さんらしいサポートへの想いがありました。
「学校の評価だけが絶対ではないし、スポーツの仕事がしたければ、その専門の人に見てもらうことが大切。学生時代は周囲から夢ばかり見ているなと言われたり、自分がしていることが認められないことに納得できないこともありました。それでもナイキの人にポートフォリオを見てもらい、やっと認められた感じがしました。デザインには答えがないから正しいことを伝えることは難しいです。でも自分の経験から判断できることがある。学生には学生の正しさがあって、瑞々しさがある。それを信じ続ける力を僕はサポートしたいと思っています」
学生と同じ目線に立って、とっても親しみのわく語り口と人柄で、質問にも親身に答えていただいた臼井さん。最後に学生時代を振り返りながらアドバイスをくれました。
「何でも面白がるのがよいと思います。これはダサいとか面倒とかではなく、とりあえず何でもやってみる。そういうことを繰り返していると、いずれ共感されるようになる。自分でチャンスを狙わなくても、見ていてくれる人がいるんです。大学にいるということはとても貴重。自分がしたいことができる4年間なんてなかなかない。楽しむことが前に出るように、その貴重な時間を使って下さい。課題なんて、お腹が空いた時に出されるカレーのようなものですよ(笑)」
1・2年生の初年次教育で、大学においてグローバルといえば留学や短期留学になりがちですが、もっと多様な切り口があるということを気付いてもらうことが「グローバルキャリアデザイン」の狙いです。一般的な国際社会やグローバル経済の加速化といった総合的な知識も大切ですが、美大において“デザインやアートにおけるグローバルとはなにか?”ということを学生に4年間の中で発見してもらうきっかけになればよいと思っています。
今年度から始まった授業ですが、1・2年生全体で約2,000名いる中で、1割の学生がこの授業を履修しています。内向きと言われる今の学生が、この授業に関心を持ってくれる、そのこと自体がとても期待できることだと思っています。今後は、外務省のODA(政府開発援助)で活動している講師を招いたり、国連関係の方に来ていただいてお話しを伺います。また学内で「KAKEHASHI project*」というのを昨年やりましたが、学生と教員が本学やアメリカでも行ったこと、そこで得られた発見を共有することも考えています。
注)*KAKEHASHI project
国際交流基金(ジャパンファウンデーション)が、政府(外務省)が推進する北米地域との青少年交流の一環として実施する”KAKEHASHI Project -The Bridge for Tomorrow-“。本学とロードアイランドスクールオブデザイン(Rhode Island School of Design)の学生がお互いの大学を訪問して交流するプログラムを実施しました。